元オーディオショップ店員のイイネドットミー(@iine_me)です。
今回はスピーカーのセッティングについてです。
スピーカーは空気を振動させていてそれが音になっています。
当然空間や振動の影響を受けるので本来の性能を発揮させるにはセッティングが大切です。
記事の目次
スピーカーの音が鳴る仕組み
まずは音が鳴る仕組みやスピーカーについて理解しましょう。
スピーカーにはユニットと呼ばれるパーツが使われています。
ユニットの種類
ユニットには再生する周波数(音の高さ)によってウーファー、ツイーター、スコーカーと呼ばれる種類があります。
ユニットが1種類だけのものはフルレンジ
ウーファーとツイーターの2種類なら2way
ロー、ミドル、ハイと3種類のユニットがあれば3wayのスピーカーと言われます。
また、同じユニットが2つついていても周波数的には2つに分けられている場合もあります。
3WAYにはウーファー・ツイーター・スコーカーやローウーファー・ミドルウーファー・ツイーターなどのパターンがあります
ユニットが空気を振動させる
音は空気の振動です。
イメージとしては波長が長くてゆっくり振動するのが低音、波長が短くて速い振動が高音です。
低音を鳴らすには空気をたくさん振動させる必要があります。大きなスピーカーユニットを使うかユニットが小さい場合は前後に動く距離を大きくする必要があります。
ユニットが動いてその前にある空気が振動することで音として認識できるようになります。
音の指向性について
続いて周波数毎の音の特性を知りましょう。
音が伝わるときには指向性というものがあります。
これはどの方向に音が進んでいくかというものです。
低音は指向性が無いと言われます。
つまり低音は音源を中心に全方向に向かって広がっていく状態です。
逆に高音は指向性がありスピーカーから正面に向かって直進していきます。
もちろんレーザービームのような一本の線ではなくある程度の広がりを持って進んでいきますが低音に比べると指向性が強いです。
ライブやフェス会場などでスピーカーの裏側に行ったことはありませんか?
低音は指向性が無いのでスピーカーの裏側まで音がまわります。
高音は指向性が強いのでスピーカーの横や裏側に行くと、ハイ落ちしたこもった音に聞こえるはずです。
PAスピーカー・SRスピーカーと呼ばれる広い会場で多人数に向けて使われる音響機器ではツイーターにホーンと呼ばれるラッパ型のガイドを使い指向性をゆるめ幅広いエリアに音を届ける工夫が施されています。
低音はどこにいても聞こえる 高音はスピーカー正面が良く聞こえる
スピーカーのタイプ
スピーカーには密閉型と言われるものとバスレフ型と言われるものがあります。
ユニット以外に低音を出す穴が開いているものがバスレフタイプ。
穴の無いものが密閉タイプです。
バスレフポートと言われる穴からは低音域が出ています。
スピーカーの前面にバスレフポートがあるものと後ろ側にバスレフポートがあるものがあります。また、最近では底面にバスレフポートを備えたスピーカーも増えてきました。
後ろ側にバスレフポートがあるものは壁との距離によって一番影響を受けるタイプなのでスピーカーのセッティングには注意が必要です。
スピーカー背面の壁との距離があまりとれない場合は前面バスレフポートタイプのほうが比較的影響を受けにくい
スピーカーの最適な壁からの距離は?
それでは実際にセッティングする際にスピーカーの壁からの距離はどうしたら良いでしょうか?
音響的な面から言うと理想は50cm、最低でも20cmは壁から離して設置してください。
壁との距離が近いほど低音が壁に反射して前に回り込み相対的に中高音域の繊細さは損なわれます。
低音があまりにもスカスカでもっと欲しい場合には、あえて壁との距離を近くすると低音の量感がアップします。
ただしそれによって中高音の明瞭さが失われるのでバランスを見ながら好みの音質になるようにセッティングしてください。
また、壁とは背面だけでなく左右の空間も20cmは空けてください。
スピーカーの中には壁からの距離が取れない場合は想定し付属のスポンジを入れてバスレフポートから出る低域の量をコントロールできるものもあります。
ただ、私が試した場合にはバスレフ型のスピーカーのバスレフポートをふさぐと低域だけでなく中高域の解放感が弱まるように感じました。できるだけ壁からの距離で調整するのがおすすめです。
壁との距離を調整して低音の量感、中高音のクリアさのバランスを取ろう
ブックシェルフスピーカーの場合
ブックシェルフスピーカーと言われる小型のスピーカーの場合、床からの距離にも気を付けてください。
低音は360度指向性なしで広がっていくので床に反射した音も耳に入ります。
ある程度床から高さを出した状態でセッティングしてください。
スピーカースタンドがあるといいです。
机の上にスピーカーを置く場合も、天板の影響が小さくなるようにモニター用のスタンド、インシュレーターなどを使い少しでも高さを出すと良いです。
ブックシェルフスピーカーはしっかりしたスタンドを用意して初めて本領発揮します。
スピーカーを設置する高さ
スピーカーを設置する際にリスニングチェアの高さやブックシェルフスピーカーの場合はスタンドの高さに悩むかもしれません。
基本は耳の高さがツイーターとウーファーの間、またはツイーターの高さになるようにセッティングします。
また、ブックシェルフは床からの高さがある程度無いと低音が反射してクリアな見通しの良いサウンドが得られないのであまりにロースタイルなリスニングポジションは音響的にはおすすめできません。
トールボーイの場合はスピーカーのサイズに合わせてリスニングチェアを選びましょう。
耳の高さとツイーターの高さを意識。
左右のスピーカーの距離と角度
設置する位置は左右のスピーカーとリスニングポイントを結ぶ線が正三角形になるのが基本です。
そこから微調整していきますが、左右のスピーカーの距離を離すと空間に広がりが出て近付けると中央の密度が上がります。
見た目通りの印象ですね。
スピーカーとリスニングポイントの距離はこんな感じでバランスの良い場所を探します。
スピーカーの角度は内振りにすると音の芯が出てボーカル、キックのアタック音などがセンターにバシッと定位してきます。
角度を甘くするとセンターはぼやけますが広がりが出てきます。スピーカーによって高音の指向性が異なるのでどれくらいの角度が最適かは音を聴きながら調整が必要です。
セッティングの際には目分量ではなくメジャーを使ってミリ単位の微調整をしてください。特に左右の距離や角度はシビアになりましょう。
サウンドに関しては好みが全てなので正解は一つではないです。どう動かすと音がどう変化するのかを観察しながら自分好みの音を追及しましょう。
一度設置が決まればあとは動かさないのでとことんがんばりましょう
スピーカーセッティングの究極のポジションを探すには
これまでの項目ではあくまでも部屋の使い勝手を優先しつつできる範囲の調整をするレベルです。
リビングや書斎などの日常空間では上記のセッティングを行うのが現実的だと思いますがオーディオルームやシアタールームなど専用のお部屋がある場合には普段の使い勝手や導線を気にすることなく究極のスピーカーセットアップを目指すのも良いと思います。
その場合のヒントになる考え方を書いていこうと思います。
今までの説明より少し踏み込んだ解説をしていくのでもちろん生活空間でのスピーカーセッティングの場合も参考になると思います。
微調整前にざっくりしたポジションで設置
まずは部屋の使い方です。一般的に長方形の部屋が多いと思いますが長辺ではなく短辺にスピーカーを置きます。縦に部屋を使うイメージです。
スピーカーとリスニングポジションについてですが部屋の長辺を計測し正面の壁から3分の1の場所にスピーカー、背後の壁から3分の1の場所にリスニングポジションを設定します。
例えば奥行きが6mの部屋であれば奥の壁からスピーカー、リスニングポジション、手前の壁までの距離がそれぞれ2mになる状態です。
次にリスニングポジションからスピーカーまでの距離を測り、左右のスピーカーの距離を合わせて正三角形になるように配置します。
スピーカーの前後の位置で低域を調整
ここからは試聴を繰り返しながらスピーカーの位置を調整していきます。
まずはベースの効いた曲をリファレンスにしてスピーカーの前後の位置を調整します。
私にはベースの調整には倍音成分の多いシンセベースが分かりやすいのでダンスミュージックや打ち込みの楽曲を使います。
普段聴いていてよく知っている曲が良いと思います。
スピーカーを少しづつ奥にずらしていくとベースの滑らかさがアップしていくはずなので自分好みのサウンドになる位置を探します。
Mark KnightとD.RamirezのコラボにUnderworldが参加した名曲Downpipeはリリース時にレコードを買ってクラブでよくかけていましたが低音の処理が上手く圧倒的な音圧で他のレコードより音量を下げていたのを覚えています。
スピーカーの前後位置の調整では参考にしている曲の一つです。
オーディオショーで試聴曲として使われていたBillie Eilishのbad guyも分かりやすいと思います。
スピーカーの角度で奥行きとセンター定位を調整
奥行きと定位を確認するには楽器の数が少ないジャズボーカルが分かりやすいです。
私はHolly cole trioのTennessee Waltzをよく使います。
Tennessee Waltzのボーカルでセンター定位を確認します。
センター定位と共にCorneliusのTone Twilight Zoneの最初の左右に振られたギターで広がりと高さを確認します。
スピーカーを壁と平行に配置すると広がりは出ますがボーカル定位が曖昧になります。
少し内ぶりに角度をつけていくとセンター定位が明確になってきます。
ネットの情報では結構内ぶりの角度を強めにしている方が多いですが、私の場合は極端な内ぶりよりもかなり浅めの角度の方が好みになることが多いです。
スピーカーの左右の距離で中央のパワー感を調整
スピーカーの左右の距離の調整ではキックのアタックや男性ボーカルの密度を見ます。
キックやボーカルのパワーが足りない場合は左右のスピーカーの距離を近づけます。
逆に強すぎる場合はスピーカーを離します。部屋によって横の壁からの反射が変わってくると思うので聴きながら好みの音質を探していきます。
割と音がセンターに集中するミックスダウンでキックの粒立ちも良いのでMiguel のPineapple Skiesを使ったりします。
ベースは鳴りっぱなしでキレの良さはありませんがセンターのパワーは分かりやすいです。
他にキックとボーカルという組み合わせで好きなのはDisclosureのHolding On ft. Gregory Porterです。
ダンスミュージックなので好き嫌いあるかもしれませんがコンプの効いたキックと厚みのあるGregory Porterのボーカルが分かりやすいです。
音圧と引き換えにダイナミクスは死んでるのですがDJプレイのようにハイパスフィルターを使って抜き差ししているのでキックが入ってくるところの迫力も参考にしています。
ルームチューニング
適度な反響と吸音がオーディオにとって良い影響を与え、吸音、反射材などで再生音を整えることが出来ます。
特に設置の簡単なYAMAHAの調音パネルなどは効果が大きく、スピーカーの間に置くだけで大きな改善が可能です。
天井の角など音が溜まる場所もルームチューニングの効果が大きいです。
リビングなど日常の生活空間ではあまりチューニングアイテムを使うのはためらわれると思いますが物の配置やラグなどで音の広がりを多少調整することもできます。
和室の場合には吸音が強く反射が弱いのでもともと割とドライな音質になり潤い感や高音の輝きが物足りないかもしれません。私の自宅には和室がないので実際に試したことはないですが畳に強いこだわりが無ければウッドカーペットを敷くなどした方が豊かな響きが得られると思います。
フローリングの場合は響きが強くウェットな環境ですがラグを敷くことで多少の吸音を施してみると音質が改善されることが多いはずです。
あまりオーディオに特化した環境にしたくない場合はまずはおしゃれなラグから始めてみるといいかもしれません。ちなみにラグは毛足が長い方が吸音効果が高いです。
以前DJをするためにドイツのベルリンに住んでいた時期がありましたが、高い天井、石造りの建物、無垢のフローリング等日本の建築とは違う部分があり安いスピーカーでも非常に魅力的な音を奏でていました。
その時は吸音や反射材は全く使っておらず、かなりライブな環境でしたが部屋自体の響きが良ければそれが生かされることもあるのだと思います。
また、ドイツは240Vの電源だったのでその影響もあるとは思いますが機材のポテンシャルを最大限発揮するにはルームアコースティックの影響は見逃せません。
オーディオの本来の目的は誰かに聴かせることではなく自分が気に入った音で音楽を楽しむことだと思います。
正解は人それぞれだと思うのであくまでも自分の耳と心を頼りにいろいろ試しながらチューニングしていくことをおすすめします。
まとめ
スピーカーのセッティング、壁との距離の調整についてご紹介しました。
このセッティングは特に機材もいらずお金がかかりません。
今すぐ試せるテクニックなのでいろいろ試して調整してみてください。
特に気にしていなかった方はこの調整だけでびっくりするぐらい音が良くなることもあります。
機材のポテンシャルを引き出すセッティングに関する記事をまとめましたので合わせてご確認ください。
みなさんのそばにいつも良い音楽がありますように。