元オーディオショップ店員のイイネドットミー(@iine_me)です。DENONの名作PMA-SX1のLIMITEDバージョンレビューです。
記事の目次
DENON(デノン)PMA-SX1 LIMITED試聴レビュー
PMA-SX1LIMITEDは2014年にリリースされたプリメインアンプPMA-SX1のカスタムモデルで2019年9月にリリースされました。
元々はDENONのサウンドマネージャー山内慎一氏が自身のサウンドフィロソフィー”ビビッド&スペーシャス”を突き詰めるために製作したものです。
経営陣にその音を体験させるために披露したところ、あまりに出来が良いのでこれは発売しよう!となり製品になったのだそうです。
かなり特殊な曰く付きのプロダクトですね!
通常のDENON製品とは全く別の流れで世に出た名作
DENON(デノン)PMA-SX1 LIMITEDの仕様
フロントパネル
躯体自体はSX1を流用しています。ボリュームノブにはLEDが仕込まれていて好みに合わせて調光やライトオフも可能です。余計なものは要らないというようなシンプルなレイアウトですね。
リアパネル
通常のLine入力端子だけでなくバランス接続(キャノン入力)も可能です。スピーカー端子もしっかりしており各端子間のスペースも十分なのでいかついスピーカーケーブルでも大丈夫ですね。
バランス入力に対応した貴重なプリメインアンプ
37種に及ぶカスタムコンデンサーを投入
開発期間4年、交換パーツ400点以上、その中で37種類のカスタムコンデンサーの開発が行われました。
カスタムコンデンサーの中にはSYコンデンサーと名付けられたものがありますがこれは山内慎一氏のイニシャルから取られています。
数年前に始めてSYコンデンサーと命名した際には会社で開発したパーツに個人名をつけたことで社内でかなり怒られたそうです。
そして今回は「一回やったら二回目も同じ」というノリでまたSYコンデンサーが生み出されました。
なんだか憎めない素敵な人柄が伝わってきますね。
試聴時にDENONの担当の方からいろいろと裏話が聞けて大変興味深かったです。
A7075(超々ジュラルミン)による新開発トップカバー&フット
トップカバーとフットの素材も変更されています。
アルミに亜鉛(Zn)とマグネシウム(Mg)が添加された合金 A7075(超々ジュラルミン)というものが採用されており、アルミ合金の中では最も強度に優れ、航空機や車両の部品などに用いられている素材です。
このあたりも試作、試聴が繰り返され、リスニングテストのうえ最適な組み合わせが選定されました。
トップパネルは表面の仕上げでもサウンドが変わるそうで、サンドブラスト、ヘアラインの比較ではヘアライン仕上げの方が透明感や表現力が優れていたとの事です。
こんな些細なことで大きく音質が変わるというのはそれだけチューニングを追い込んだ機種であるからこそかもしれませんね。
本当にオーディオというのは不思議なものです。
ちなみに私がオーディオショップに勤めていた頃に驚いた経験としては、オーディオラックの各機種の手前にプライスカードを置いていましたが、そのカードの有り無しで音が変わるのを体験しました。
実際に聴くまではまさかそれで音が変わるとは思っていなかったので本当に驚きました。
低倍率箔採用の高音質カスタム・ブロックコンデンサー
入力信号を電源回路から供給される電流によって増幅するアンプにとって、電源回りは特に大切です。
この電源にノイズがのっていればそれはそのままサウンドのノイズ、濁りへと直結します。
出力用と電圧増幅用には何度も試作を繰り返し高品質なカスタムブロックコンデンサーをそれぞれ採用しています。
大切な部分は全てカスタムされたパーツを使い、気の遠くなるような試作、チェックを繰り返して選定されています。
Advanced UHC-MOSシングルプッシュプル回路
UHC-MOS-FETとは?
DENONのプリメインアンプに用いられるUHC-MOS-FETですがそもそもどんなパーツなのでしょうか?
これは増幅素子と言われるもので、入ってきた信号を大きくして出力するための部品です。
通常信号が経由する部品の数が増えるほど音質は劣化しますが信号を大きく増幅するためには複数の回路を経由する必要があります。つまり繊細な表現力(部品の少ないシンプル構造)とパワー(複数の回路で増幅する構造)は相反する構造が求められます。
UHC-MOS-FETは通常のMOS-FET35個分の増幅力があるパーツとして93年に開発されました。その後20数年進化を続けてAdvanced UHC-MOS-FETとして受け継がれ、今回採用されているUHC-MOS-FETは定格電流は30Aから60Aに、瞬時供給電流は120Aから240Aへと増強されています。
素材の品質を高め部品点数を減らす設計
シングルプッシュプルとは?
交流信号のプラス側とマイナス側で別々の素子を使う回路がプッシュプルです。シングルプッシュプルとは各ラインで1つのみのパーツを使う(1ペア)回路を指します。
通常大きな出力を得るために複数の増幅素子が使われますが、各パーツごとのバラつき(個体差)が音に影響します。DENONはそれぞれの回路の差異を最小限にするために1ぺアという最小単位で構成しています。
最小単位の回路構成で素子のバラつきによる音の濁りを低減
仕様
パワーアンプ部
定格出力 | 50 W + 50 W (8Ω、20 Hz ~ 20 kHz、THD 0.1 %) 100 W + 100 W (4Ω、1 kHz、THD 0.7 %) |
全高調波歪率 | 0.01 % (定格出力、-3 dB時)、負荷8Ω、1 kHz |
出力端子 | スピーカー:負荷 4 ~ 16 Ω |
入力感度 / 入力インピーダンス | EXT. PRE:0.7 V / 25 kΩ ゲイン値:29 dB |
プリアンプ部
録音出力端子 | 150 mV |
入力感度 / 入力インピーダンス | PHONO(MM): 2.5 mV / 47 kΩ PHONO(MC Low): 200 μV / 50 Ω PHONO(MC High): 200 μV / 100 Ω CD、NETWORK、TUNER、AUX、RECORDER :105 mV / 47 kΩ BALANCED:105 mV / 95 kΩ |
RIAA偏差 | PHONO(MM / MC): ± 0.5 dB(20 Hz ~ 20 kHz) |
最大入力 | PHONO(MM): 130 mV / 1 kHz PHONO(MC): 10 mV / 1 kHz |
入出力端子
アナログ音声入力端子 | バランス入力×1、アンバランス入力×5、PHONO(MM)入力×1、PHONO(MC)入力×1、EXT. PRE×1 |
アナログ音声出力端子 | アンバランス出力(RECORDER)×1 |
その他 | IRコントロール入出力×1 |
総合特性
S / N比(Aネットワーク、8Ω負荷) | PHONO(MM): 82 dB(入力端子短絡、入力信号5 mV) PHONO(MC): 70 dB(入力端子短絡、入力信号0.5 mV) CD、NETWORK、TUNER、AUX、RECORDER: 105 dB BALANCED:102 dB(入力端子短絡) |
周波数特性 | 5 Hz ~ 100 kHz(0 ~ -3 dB) |
総合
外形寸法(W × H × D) | 434 x 181 x 504 mm |
質量 | 29.5 kg |
消費電力 | 275 W |
待機電力 | 0.1 W(オートスタンバイオン) 0.2 W(オートスタンバイオフ) |
付属品 | 取扱説明書、リモコン、単4形乾電池 × 2、電源コード |
DENON(デノン)PMA-SX1 LIMITEDの音質レビュー
それではPMA-SX1LIMITEDの音質レビューです。
比較対象は通常モデルのPMA-SX1、スピーカーはB&W800D3です。
まずはPMA-SX1から試聴します。
しっかりと芯のある密度の高い音で素晴らしいです。
イメージとしては太い音、輪郭は少し丸みを帯びています。
ボーカルは艶やかに、ベースは中身がみっちり詰まって鮮やかに、美しいピラミッド型のサウンドと感じました。
エレクトリックな曲とアコースティックな曲を聴きましたがどちらもカバーできる懐の深さがあります。
ただ、私の想像する800D3の音よりも少しだけ物足りない感じがしました。
おそらく800D3を完全にドライブするにはもう少し上のランクのアンプが必要なのかなと思いました。
続いてPMA-SX1LIMITEDに切り替えます。
全く違いました。。
サウンドの緻密さ、細かい一音一音の倍音の豊かさや空気が細かく震える様まで描ききる描写力。
昔のアナログTVの映像が4K,8Kの映像になったかのように抜群の解像度で色鮮やかに表現されます。
サウンドバランスとしては、SX1はボトムが広がる印象でしたがLIMITEDになると全体はフラットな印象になります。
ただ、キックやベースのアタックがクリアに粒立ち良く鳴っているので低域にパワーは十分感じます。
キレが良くスピード感のある低音です。
特に印象的に感じたのは全ての帯域において音に芯が通ってクッキリハッキリと鮮明になることと、奥行き、広がりが広大になりスピーカーの位置は変わらないのに空間が広くなったことです。
個人的な好みで言えば全てが完璧でめちゃくちゃ好きなサウンドです。
とにかく素晴らしい!ひとつの完成形と言える圧倒的な実力!
DENON(デノン)PMA-SX1 LIMITEDの評価
通常は1年ほどの開発期間でコンセプト決めから設計、試作、サウンドチューニングまで行われるのが新作リリースのスケジュールだそうです。
もちろん先に想定販売価格が決まっており、コスト制限の中で最大のパフォーマンスを発揮できるように開発していきます。
冒頭でご紹介したようにSX1LIMITEDに関しては全くその流れとは違う経緯で発売まで至っています。
サウンドマネージャー山内氏の個人的なリファレンスモデルを作るという目的の為、予算、開発期間などの制限を一切取っ払い、全てのこだわりと情熱をぶつけた最高の製品です。
本来世に出ることの無いはずのそんなプリメインアンプが購入できるというのはオーディオファンとしては熱くならずにはいられません。
実売価格は70万円台。
私にとっては高いですが他の100万円オーバーの機種や同価格帯の製品と比べると決して高くなく、むしろコストパフォーマンス抜群の機種に思えます。
オーディオは悩ましい趣味ですね。。。価格のバランス感覚が崩壊してる気がします。
しかし、これくらいの予算感でシステムが組める方にはぜひ選択肢の一つに入れていただきたいプリメインアンプです。
シャキシャキした歯切れの良いクリアなサウンドならSX1LIMITED、アナログライクな温かみのある音ならSX1といった印象です。
SX1 LIMITEDは現代的で鮮やかなサウンドが楽しめる非常にレベルの高いプロダクトでおすすめです。
購入して後悔することはないと思いますし一生使えると言ってもいいと思います。(年齢にもよるかもしれないですね。。)
最後に
PMA-SX1とPMA-SX1LIMITEDの比較レビューでした。
どちらも抜群に良い音を奏でるプリメインアンプです。鳥肌の立つオーディオ体験をさせてくれる貴重なプロダクトですので機会があればぜひ体験してみてください。
スピーカーやアンプのポテンシャルを引き出すセッティングに関する記事をまとめましたので合わせてご確認ください。
皆様が良い音楽と過ごせますように。